治療方針|脊椎脊髄センター

患者さんひとりひとりに寄り添った治療法を提案します

 当院の脊椎脊髄センターでは脳神経外科医が脊椎脊髄に関する治療を行っています。脳神経外科医が脊椎疾患を治療するメリットは、脳から手足の先まで神経の問題を包括的に診断できることと、顕微鏡を使用した繊細な手術技法に優れていることです。顕微鏡手術では、脊髄と神経を傷つけることがないようにやさしく扱い、傷口も小さく、かつ安全で確実な手術を行うことができます。
 最近では高齢の患者さんが急増しています。若い患者さんに対しては既存のガイドラインに基づいた治療が効果的ですが、ご高齢の患者さんにはそれぞれの体調や状況に合わせた治療が必要です。手術後もなるべく早く起き上がったり歩いたりすることができるよう、できるだけ体に負担のかからない手術を選択し、患者さんひとりひとりに寄り添った治療法を提案することを心がけています。
※下記にいくつか典型的な治療法をご紹介しますが、患者さんにより、入院期間・傷口などが大きく変わることがあります。詳しくは担当医にご相談ください。

頚椎症頚椎椎間板ヘルニア頚椎症性脊髄症など)

 首の痛みだけでなく、肩や腕、手に強い痛みやしびれが生じたり、筋力の低下や、字が書きづらい、ボタンがつけづらい、タオルを絞りづらい、など手指の細やかな動きが制限される症状(巧緻運動障害【こうちうんどうしょうがい】)が生じることがあります。神経のダメージがさらに悪化すれば足の症状も出現し、歩行困難になってしまうこともあります。そしてこれらは急速に進行することもあります。
 痛みだけの場合は安静にして体を休めたり、お薬を使いながら経過をみることで改善することが多いです。しかし、それでも症状が進行する場合や神経症状が強い場合には手術が必要になることがあります。
 頚椎の手術には、首の前からアプローチする「前方到達法」と首の後ろからアプローチする「後方到達法」があります。どちらがより良い選択かは患者さんの状態によりますので、より適した方法を提案いたします。手術の目的は、症状の進行を防ぐこと、そして現在の症状をできるだけ改善することです。

前方到達法頚椎前方除圧固定術】
神経を圧迫する変形した椎間板や骨の変性部分を摘出し、神経の除圧を充分に行い、代わりに骨の支えとなる金属(ケージと呼ばれます)を置きます。椎間板ヘルニアの摘出や、変形した頚椎の矯正、また神経の圧迫の解除にも有効な手術です。 前頚部に4cm程度の皮膚切開を必要とします。入院期間は1週間前後です。

前方到達法頚椎人工椎間板置換術】
当院では人工椎間板を用いた手術も可能です。主に比較的若い方を対象とし、手術を行うには骨の変形が強くないなどいくつか条件がありますが、頚椎の可動域を残せるなどのメリットがあります。

後方到達法頚椎椎弓形成術(脊柱管拡大術)】
首の後ろを切開し、脊柱管(せきちゅうかん)と呼ばれる神経の通り道の後ろ壁を開いて拡大することで、神経の圧迫を解除する手術です。後頚部に5cm程度の皮膚切開を必要とします。しっかり歩行できる方の場合は、入院期間は1週間程度です。

後方手術により、神経の通り道を拡大しています

腰椎症(腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症など

 腰椎症として最も代表的なものが①椎間板ヘルニアと②脊柱管狭窄症です。主な症状として腰痛・下肢痛、しびれがあげられます。
①椎間板ヘルニアについては、まずは安静、腰椎コルセットの着用、薬の治療など「保存的な治療」によって改善がみられることが多いです。しかしこうした治療を2~3ヶ月続けても改善が見られない場合、痛みが激しく生活に支障がある場合、下肢の動きに問題がある場合には手術が必要になることがあります。
②脊柱管狭窄症は加齢とともに増えていく疾患です。脊柱管(神経の通り道)が狭くなり、神経に圧迫がかかる疾患です。歩行や立位時に足の痛みやしびれが現れ、長時間歩くと症状が悪化し、座って休むと症状が軽減する、「間欠性跛行(かんけつせいはこう)」と呼ばれる症状が特徴です。

腰部脊柱管狭窄症の除圧術】
背骨に小さな穴をあけて、後ろから神経を圧迫している骨や靭帯を取り除き、神経の圧迫を解除します。1箇所の手術の場合は傷口は3-4cmで可能ですが、複数箇所手術する場合はもう少し大きくなります。しっかり歩行できる方の場合は、入院期間は1週間程度です。

骨粗しょう症椎体骨折

 骨粗しょう症をお持ちの高齢者を中心に急激に増えているのが脊椎圧迫骨折です。大きなケガでなく、転倒や尻もち程度の軽いケガでも起きることが特徴です。痛みは非常に強く、骨折の程度や痛みによっては手術が望ましいことがあります。

【経皮的椎体形成術】
 数ミリの切開のみで治療できる圧迫骨折の手術法です。皮膚に小さな切り込みを入れ、そこから圧迫骨折した椎体に針を刺し、針からバルーンと呼ばれる専用の風船が先端についた器具を挿入します。バルーンを膨らませて潰れた脊椎をできる限り回復させ、そこに骨セメントを注入して椎体を固めます。痛みで動けなかった方でも速やかに痛みを緩和することができ、早期離床が可能となります。日本では平成23年1月から保険適用されている治療法です。全身麻酔が必要になるものの、手術の所要時間は20分程度で患者さんの負担が少なく手術の翌日から歩くことができます
 全体的には痛みの60-70%が軽減されると言われており、痛み止めが不要になったり減らすことができる可能性があります。リハビリを行い充分に歩行ができ次第退院となりますので、早い方は数日で退院可能になります。

バルーンを膨らませ、つぶれた椎体を整復する

変形性腰椎症、腰椎すべり症、側弯症など

 当院の脊椎脊髄センターでは、手術の際にはできるだけ患者さんの負担の少ない方法を選んでいます。しかし変形が強い場合、腰椎すべり症、側弯症などの場合は、除圧術のみでは症状の改善が見込みづらく、脊椎専用のボルトなど金属のインプラントを使用した「脊椎固定術」が必要となることがあります。
 一般的に固定術は除圧術よりも患者さんの負担が大きくなり、術後には硬いコルセットを着用し、リハビリを行う必要があります。最近では、側腹部からアプローチする手術方法(OLIF、XLIFと呼ばれる方法です)が普及しており、これにより腰の筋肉をできる限り保護しつつ、従来よりも痛みの少ない治療が可能になりました。
 この手術法には高度な技術が求められますが、脊椎外科専門医が最新のデバイスを使用した安全かつ負担の少ない手法を行っています。固定術の場合、入院期間は10-14日間程度必要になることが多いです。痛みの管理を行いながら、リハビリ科とも連携の上、なるべく早く元の生活に戻れるようサポート致します。

変形性腰椎症【腰椎前方後方同時固定術(OLIF)】

固定術にどうしても抵抗がある場合は、代替案を提案できる可能性もありますので、担当医にご相談ください。