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New Post|2024.04.16

学びになるコラム

脊椎脊髄センターは超高齢社会にどう立ち向かうのか

学びになるコラム

脊椎脊髄センターは超高齢社会にどう立ち向かうのか

日本は世界ナンバーワンの超高齢社会です

 超高齢社会というのは、65歳以上の人が21%以上の社会を指すのですが、今や30%近くになっており世界でも飛び抜けて高い数字です。私が幼少期の頃は、日本は7%以上の「高齢化社会」であると習った記憶がありますが、それが今や30%に到達しそうになっているのですから、日本の未来を懸念してしまうことがあるのは事実です。今後さらに高齢化は進み、40年後には65歳以上が約4割に至ると予想されており、大きな社会問題となっています。

 そのような超高齢社会において大切なことは、平均寿命ではなく「健康寿命」ではないでしょうか。「命がある期間」が寿命ならば、「日常生活が制限されず生活できる期間」が健康寿命です。そして健康寿命は脊椎(せきつい)疾患が大いに関連します。「最期は苦しまずポックリ逝きたい」というフレーズは、誰もが一度は聞いたことがあったり思ったことがあるかもしれません。これは健康寿命が平均寿命に極限まで近づいた状態のことです。いつまでも元気でいたいと思う人は多くても、寝たきりでもいいから長く生きていたいと思う人は少ないでしょう。すなわち、ただ長生きするのではなく健康寿命を重要視していることの現れではないかと思います。しかし実際には、平均寿命、健康寿命の差はあまり縮まっていないのです。確かに寿命は伸びていますが、身体が不自由な期間も長いということです。特に女性はこの傾向が強いです。その原因の一つが、せぼねを悪くして生活の質を損なってしまう脊椎(せきつい)疾患であり、脊椎を患う患者さんの健康寿命をいかに伸ばすかということは、我々脊椎外科医の課題であると感じています。

 脊椎疾患にはもう一つ問題があります。高齢化に伴い脊椎疾患患者さんは急増しているのに、路頭に迷いやすい疾患ともいえます。すごくありふれているけど、患者さんにとっても医師にとっても診断が難しい領域なのです。たとえは手足のしびれなどの症状があっても、みなさんはまず頭の疾患、つまり脳卒中の心配をしがちです。原因が脊椎疾患であると患者さん自身が気づきづらく、医師にとっても同様の傾向があるのです。診断にはMRIが重要でありますので、MRIのある施設でなければ診断が難しくなりやすいです。そしてMRIを撮るためにはほとんどの場合予約が必要になることも、早期診断へのハードルとなっています。

 このような問題を解決したく、当院では2020年10月、脊椎脊髄(せきついせきずい)センターを開設いたしました。当センターの開設により、脊椎の症状に悩む患者さんがスムースに当センターを受診できるような導線を作り、患者さんが路頭に迷わないように改善しました。我々は脳神経外科の専門家ですが、脳神経外科学には細分化された専門領域に脊髄外科分野があり、当センターでは脊椎を専門とする医師が頚椎から腰椎まで一括して治療しています。2023年現在、当センター開設後3年が経ちましたが受診される患者さんは増え続けてきました。脊椎疾患に悩まされている患者さんの生活の質、そして健康寿命を伸ばせるよう我々は今も研鑽を積み続けています。

医療は専門性が高いからこそ、治療に妥協してはいけない

 医療は専門性が高いとはどういうことでしょうか。たとえば飲食店で食事したり宿泊施設に宿泊するときのことを想像してください。食事がおいしかった、良い空間で楽しい時間を過ごせた、サービスが良かった、悪かった、などお客さんの誰もが評価しやすいと思います。我々は日頃からこのようなサービスに慣れ親しんでおり、評価に専門的な知識は要さず感じたままに評価すればよいからです。

 対して医療はどうでしょうか。医療は専門性が非常に高く、我々医療従事者は専門的な教育を長年受けることで、ようやく医療を行う資格と実力を得ています。もちろん患者さんへのインフォームドコンセント(病状、治療の説明)は重要なのですが、患者さん自身が正しく判断しベストな治療を選択することは現実的には難しく、専門の医師を信頼して治療方針を委ねざるを得ないことが多いと思います。そして受けた治療が本当にベストだったのかどうか、評価も難しいかもしれません。専門性が高いからです。このように専門性が高い医療の分野は正しいフィードバックを受けづらく、ともすればブラックボックスとなってしまい医療従事者側の妥協を生みかねません。だからこそ我々は常に正しい診断をし最適な治療を提供する努力を怠ってはいけません。提供する医療の質はもちろんのこと、患者さんに良い治療を受けることができたと感じていただくようにすることも我々の重要な役目です。

信頼関係を維持するために

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 我々医療従事者にとって病院で働くことは日常です。しかし患者さんにとっては右も左もわからない慣れない場所に入院しており、専門的な治療を受けています。これは当たり前のようで常に意識しないといけない事実で、我々が思っている以上に患者さんは不安と緊張を抱えて治療を受けられていることを想像しないといけません。そして医療者への不満・不安が生まれても遠慮して言いづらい状況になりがちです。なぜなら患者さんとしては円滑に治療を受けるために医療者との関係を崩したくないという心理が働くためです。つまり、患者さんからクレームをいただくときは相当な不満が積み重なった状況だと考えたほうがいいでしょう。ちょっとしたことで信頼関係がくずれてしまうおそれがあり、医師としてすぐに対応をすべきでしょう。

 私が常に心がけていることは、こちらから先手を打って患者さん・ご家族へのコミュニケーションを図る、ということです。このタイミングが重要であり、ご質問やご依頼を受けてから対応するのでなく、常に一歩先んじた対応を行うことで患者さんに安心いただくことができ、信頼関係が生まれ、結果として治療を円滑に行うことができます。医療技術、専門知識、資格などは「ハードスキル」と呼ばれるのに対し、コミュニケーション能力、信頼性、課題解決能力など個人の能力は「ソフトスキル」と呼ばれたりします。肩書きや数字としては表しづらく評価が難しいこの「ソフトスキル」こそが、医療者としてより重要であり向上すべき能力であると考えています。

リンク:脊椎脊髄センター 治療方針 

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