子どもたちの“安心”を支える「絵本」プロジェクト

長谷川医師が監修に携わった絵本が発行されました。
「災害が起きたとき、特性を持つ子どもたちはどんな不安を抱えるだろう」 「医療の現場として、私たちにできることは何だろう」
そんな問いかけから始まったのが、今回ご紹介する絵本プロジェクトです。
医療現場の気づきが、社会へのメッセージに
プロジェクトのきっかけは、出版社との対話の中で生まれた「災害時に子どもたちを支える仕組みを作りたい」という想いでした。 とくに、発達障害などの特性を持つ子どもたちは、環境の変化に弱く、避難所や非常時の状況では不安や混乱が強まりやすい現実があります。
「彼らに必要なのは、“特別扱い”ではなく、ちょっとした工夫や配慮」 そう語るのは、小児科医としてNICUの現場も経験し、発達支援に長年取り組んできた長谷川医師です。

「わかってくれる人がいる」ことの力
絵本の主人公は、発達特性のある女の子「ココロちゃん」。 物語では、突然の災害で不安を抱える彼女と、周囲の大人たちの関わりを通じて、少しずつ安心を取り戻していく姿が描かれています。
本作には、“しあわせカルテ”という緊急用カードも登場します。 このカードには、子どもの特性やアレルギー、連絡先などを記入でき、災害時に保護者やかかりつけ病院とスムーズにつながる手段となります。
「災害時、何が不安って“自分を理解してくれる人がいない”ことなんです。 でも、たった一人でも“わかってくれる人”がいれば、子どもはぐっと落ち着ける。 それは障害の有無に関係ありません。誰にとってもそうなんです。」
長谷川医師の言葉が、絵本のテーマそのものです。
“先生”ではなく、“ハセガワのおじさん”
物語の中で、主人公に寄り添うのは長谷川医師。ご本人の希望で“先生”ではなく“おじさん”と呼ぶように伝えるシーンが描かれています。
「“先生”って呼ばれると上下関係が生まれてしまう。 それよりも、“ハセガワのおじさん”って呼んでくれた方が、子どもたちも話しやすいんです」
普段の診療でも、長谷川医師は子どもたちとの“関係性”を最も大切にしており、その姿勢は絵本にも表れています。
「食べられる」ことが命を守る
栄養科の角田栄養士長も災害時の食事についてのアドバイスを掲載しました。発達特性のあるお子さんの中には、咀嚼が苦手だったり、特定の食感や食材に強いこだわりを持っていたりするケースがあります。非常時には「食べること自体がストレス」になることもあります。
過去に接した方で、朝は咀嚼がしんどいのでオートミールを粉々にしてミキサーにかけて食べている方もいたんです。こういうこだわりのある食生活を丁寧に話してくださる方がいました。
このような特性のある事例などを思い出しながら書きました。
「非常食が用意されていても、それが“その子にとって食べられる形”でなければ意味がありません。非常時だからこそ、“安心して食べられるもの”の備えが必要です。 アレルギー対応だけでなく、“食のこだわり”への理解も、命を守るための一歩です」
角田栄養士長の言葉には、災害時における“食支援の視点”が凝縮されています。

絵本がつなぐ医療・保育・地域の連携
この絵本が目指すのは、ただの読み物ではありません。 保育士や学校の先生、親、そして医療者といった「子どもに関わるすべての人たち」が、特性のある子どもとどう向き合うかを考えるきっかけを提供するものです。
実際にこのプロジェクトを通じて、保育園や教育現場からも共感の声が寄せられており、「避難所での非常食の配慮」「アレルギーの明示」「緊急連絡カードの携帯」など、実務的な展開も模索されています。
長谷川医師は、「この絵本をきっかけに、小学校や保育園との連携がもっと進めば」と語ります。
絵本に関する情報
こころちゃんの記録 緊急事態変
B5判 24ページ 定価1870円 問合せ 三恵社 052-915-5211
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